ぼくがこの花を見つけたのは、昨年の秋の夕暮れだった。宵闇が迫る線路脇、

子供の背丈程の高さに、浮かぶようにして咲いていた。はじめは何かが光って

いるのかと思ったほど、それはわずかな残照を一点にかき集め、明るく輝いてみえた。

 少年の頃、この花はとても身近にあった。ぼくは小児ぜんそくの発作持ちで、週に一度は床に臥せっていたが、そうで無いときは人一倍元気だった。毎日のように服を泥だらけにして、近所の子ども達と戸外を飛び回っていた。虫とりに基地遊び、探検ごっこなど、友達との遊びは何でも楽しかった。そして気がつくといつも辺りは夕暮れで、暗がりのあちらこちらに月の花が咲いていた。夏から秋にかけては、この花が一日の終わりを知らせてくれるのだった。それでも名残惜しくて家に帰らず外で遊んでいることもあり、母はぼくの名を呼んでしばしば探し歩かねばならなかった。その声を遠くに聞きながら、幼なじみの女の子の髪を分け、挿してあげたのもこの花だった。

 

 今回久しぶりに月の花を手に取る機会に恵まれ、その美しさに改めて気付かされた。特に、花弁からぬっと力強く突き出した、雌蕊と雄蕊の姿にはっとした。花弁を取り去り手のひらにそっと乗せてみると、蕊は濡れていて、意外に重たかった。それだけで何か妖精か不思議な生き物のように思えた。暮れてゆく空の色やゆれる草の情景、友達の息づかい、渡る風の懐かしいにおいが、ふっとよみがえったような気がした。

                    西村陽一郎

2010年「月の花」展

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