top of page

●西村陽一郎写真展「青い花」
 

以前、この連載で紹介したこともある西村陽一郎さんの写真展「青い花」があったので、四谷のルーニィまで行ってきた。今回もすごく良かった。

海中に浮かぶ小さく青い生物のようなイメージ。しかし、それはソメイヨシノの花なのだそうだ。ただソメイヨシノを枝ごと切ってきたのではなく、小鳥がついばんで、枝から落としていったものを、拾い集めたというのもポイント。そしてそれをネガキャリアに挟んで、印画紙にダイレクトに投影してプリントしたそうだ。

現像をやったことがない人にはちょっとイメージしにくいかもしれないが、フィルムで撮影したら、フィルム現像を行い、現像したフィルムをネガキャリアに挟んで印画紙に露光するというのが、普通のやり方。それを撮影、フィルム現像の工程を省き、現物をいきなりネガキャリアに挟んでしまったというわけだ。

 

西村さんがよくやる写真手法にフォトグラムがある。フォトグラムというのは、やはり撮影は行わずに印画紙の上に物を乗せて露光する方式だ。つまり現物の大きさの影ができるわけだが、今回の手法の場合にはランプに近いネガキャリアに花が挟まっているので、像は拡大されることになる。

 

プリントの大きさはいろいろあったのだが、メインはB0。つまりかなりデカイ。そのデカイ印画紙を壁面に留め、引伸機も横にして露光したそうだ。露光が終わったら印画紙を現像液や定着液に浸けて攪拌するという作業があるが、それをすべて全暗黒下で行ったのだという。想像するにすごーく大変な作業だ。

 

印画紙はネガフィルム用のものなので、花の像は明るさと色が反転した状態だ。印画紙には花を透過した光が当たるわけだが、薄くて光をいっぱい透過する部分は暗くなり、通さない部分は白っぽくなる。

 

色に関しても反転するので、実際の色の補色が現れてくる。全体に青っぽく見えるが、おしべやめしべの黄緑っぽい色の補色だ。ピンクの花びらは、光をかなり透過しているようで、暗くなり、うっすらと見える感じだ。つまり全体としては、おしべやめしべが青い触手のように見えているというイメージだ。

 

言葉で説明しようとすると難しいなあ(笑)。でもそれがすごくきれいなんだよ。全体に色味は少ないけど、その青というのは、たぶん印画紙で再現できる一番鮮やかな青。しかもフィルムを使っていないから粒状感のようなものもない。階調も自然の階調だし、そのあたりも美しく感じる要因なのだろう。

 

近づいてみるとすごく小さな青い丸がポツポツとある。これは黄色い花粉なんだそうだ。かなりクリアに映っているが、小さな小さな花粉の本物の影なのだと思うと、ちょっと不思議な感じだ。

 

●フィルムレスは欠陥?

 

写真のデジタルアナログ論争のなかで、「デジタルには実体がないからダメ」という言い方がある。この場合の実体というのはフィルムのことだが、フォトグラムの場合にも、その実体とやらはない。考えてみればフィルムを使わず、いきなり印画紙にプリントするというケースは他にもあるし、ポラロイドカメラなんていうのもフィルムはない。

 

となると、フィルム対デジタルというとらえ方にはあまり意味がないかと思えてくる。印画紙やディスプレイに出力し、見ることを最終目標と考えれば、フィルムレスが致命的な欠陥であるとは思えない。

 

最終出力物さえ鑑賞できれば、中間生成物に実体なぞ求めなくてもいいんじゃないかなあ。

 

「青い花」の会期は残念ながら終わってしまったけど。8月には別の写真が見られるそうです。それと西村さんは美学校の写真工房の先生でもありますが、モノクロプリントのワークショップもやっているそうなので、興味のある方はどうぞ。

 

●「水の中」

会期:2007年8月1日(水)~8月14日(火)15:00-22:00 最終日17:30まで

●「グラス」

会期:2007年8月15日(水)~8月28日(火)15:00-22:00 最終日17:30まで

会場:ギャラリーユイット(東京都新宿区新宿3-20-8 トップスハウス8階TEL.03-3354-6808)

 

●美學校モノクロ写真WS

日程:'07 9/7 9/14 9/21 9/28 10/5 10/12(毎週金曜日・全6回)

時間:18:30~21:30(3時間)

受講料:36,000円+材料費4,000円

場所:美學校(東京都千代田区神田神保町2-20 第2富士ビル3F TEL:03-3262-2529)

 

【うえはらぜんじ】

上原ゼンジ写真実験室

https://zenji.info/

bottom of page