西村陽一郎個展「薄い羽」

2006.08.23 Wednesday 21:14

ギャラリー ユイット

2006年8月9日(水)~8月22日(火)

 

曖昧な知識でしかないのだが、19世紀にガラス乾板の乳剤層をとがった金属で削り取り(あるいはガラス板に煤を付着させ、尖った鉄筆のようなモノで絵を描いた)、その版を印画紙に重ねて露光するという技法があった。20年ほど前に、なにも知らずに写真展のつもりでたどり着いたギャラリーで、この技法を眼にして立ち往生した記憶がある。印画紙という媒体に光の作用で、画像を造るから、写真という分類なのか、版という概念ということで版画という分類なのか、いまだに判然としない。プリントだから、どちらでもといわれても、写真ということばのなかで育ったからだろうか、いまだに釈然とはしない。増して、その版の方を展示するということもあり、貴重であるということ以外に価値を見出すことは出来なかった。

西村のプリントの美しさには、驚かされた。彼のフォトグラムの作品と出会ったのは画廊春秋という銀座の小さな画廊だった。シュルレアリスムの末裔、遅れてきたシュルレアリストをイメージさせる作風は、しかし、日本の写真の表舞台に場所はなかったようだ。すこし変わった美しいフォトグラムを造る写真家がいる、そう記憶されていたはずだ。このところの新作では、もうすこし実験的な趣を評価され、興味を持つ人の輪も拡がってきているだろう。フォトグラムという技法が、再発見されつつある状況のなかで、西村の近作もまた大きな自由度を獲得してきている。暗闇のなかに感光紙を置き、光の偶然を誘うことによって画像を生成させる。光の直進作用を利用して、光を遮蔽し、グラディエーションを跡す。光を透過する物質、光を屈折させる物質、光の回折現象。今回の展示は、10年ほど前の作品だという、現在の実験的な作品を造るなかで、何故にこの時代の作品を展示したのか。羽根を用いたシリーズは確かに西村のひとつの頂点ではあった。西村はフォトグラムという技法を拡大し、もっともっと先に行けるはずだと思っている。まだまだ振り返る時期ではないだろうとは思いつつ、今ここで羽根のシリーズをあらためて見返そうとするところに、ひとつひとつ確実に着実に作品を造り続けてきた西村らしさを見出すことも出来る。

              谷口雅